「 独占禁止法上の差止請求権をご存じですか?」 ▲ 論文集TOPへ

1. はじめに

 過去に独禁法違反とされた事例で、ある地域で新聞社が新規参入しようとしたのに対し、圧倒的なシェアを有する既存新聞社が原価を割り込んだ低い価格の広告料金を設定し、新規参入業者が広告収入を得られないようにした事件[▼1]や、納入業者が老舗百貨店から売場改装費用を負担するよう要請されこれを拒否できない事件[▼2]がありました。

 このような独禁法違反(前者は不当廉売、後者は優越的地位の濫用)行為に対して、被害者(前者は新規参入業者、後者は納入業者)は、従来、公取委に報告して職権発動を促す[▼3]か、損害賠償訴訟をするなどの方法しかなく[▼4]、いずれも被害者の救済が不十分でした。

2. 独禁法上の差止請求権の導入

(1) しかし、平成12年5月12日、私人にも差止請求を認める改正法が成立し、不公正な取引方法によって被害にあった者は、「侵害の停止または予防」を求める権利が認められました。したがって、改正法施行後は(施行期日は平成13年1月6日から6ヶ月以内で政令が定めるとされています[▼5])、上のような事案について、差止を請求することができます。

(2) 今回の改正法では、不公正な取引方法に対してしか差止は認められませんでした。私的独占や不当な取引制限や企業結合に対しては、差止が認められないことになります。しかし、過去の判決・審決で不当な取引制限や私的独占とされているのと類似の事例であっても、あきらめる必要はありません。同時に不公正な取引方法に該当する場合は多いのです。たとえば上記不当廉売の事例は、実際の審決では、他の行為とあわせて私的独占とされましたが、不当廉売にも該当するので、差止を請求することができます[▼6]。

(3) 問題は、差止請求ができるのは「著しい損害」またはその「おそれ」がある場合とされていることです。立法担当者は公害訴訟において差止を認めなかった最高裁判決を持ち出して「差止を認めるには損害賠償を認める場合よりも強い違法性がなければならないから、著しい損害を被る場合に限定した」と説明されています。しかし、そもそも差止を限定しなければならないのは、保護すべき対立利益(公共性など[▼7])があって、差止を実現することにより、加害者の利益ではなく公共的利益に影響が及ぶからであるのに対し、独禁法違反の差止の場合は、加害者の事業活動自体を差止めるのではなく違法な行為を差止めるだけですので、加害者は適法な事業活動であれば何ら制限を受けないのですから(少なくとも差止の内容が単なる違法行為の禁止であり過大な負担を負わせるわけではないような場合はそうです[▼8])、差止を制限する必要はなく、「著しい」という限定を付することは妥当ではありません。「著しい」の意味によっては、多数の消費者に広く薄く被害が発生する場合は被害が小さいとして差止を認めない口実にされる危険がありますので、限定的に解釈するよう注意が必要です。

(4) 求めることができる「差止」の内容は、不作為に限られず、作為も含まれますので、たとえば出荷停止が不公正な取引方法に該当するならば、出荷を命ずることができます[▼9]。それ以外にも、上記百貨店の事例などでは、違法な要求の撤回、撤回した旨の通知など、事案に応じて柔軟な請求を工夫できます。

3. 差止制度は、要件・効果が一義的でないため、独禁法違反行為に対する救済を実現するための武器になるか否かは、今後の運用いかんによると言われています。せっかくの差止制度が骨抜きにならないように、積極的に活用しましょう。

以上

(文責:中嶋 弘、出展:太平洋法律事務所の事務所ニュース「太平洋News Letter vol.22」)


[▼1] 北海道新聞社事件

[▼2] 三越事件

[▼3] 独占禁止法45条1項

[▼4] ただし、従来も仮処分事件など、差止を認めたと解釈する余地のある裁判例は存在しました。

[▼5] 本稿脱稿後、政令が制定され、平成13年4月1日から施行されることになりました。

[▼6] 立法論として、不公正な取引方法に限定することは妥当とは思われません。

[▼7] 抽象的公共性ではなく、具体的な公共の利益のことです。

[▼8] (4)記載のとおり、差止めの内容いかんによっては相手方に大きな負担を追わせる場合があり得、そのような場合には何らかの制限が必要とされることは認めざるを得ないと思われます。ただしその場合でも、「損害」が「著しい」場合に限ることは合理的ではないと考えます。

[▼9] これは筆者の見解であり、通説というわけではありません。立法担当者の解説でも正面からは認めていません。ただし、合衆国では差止請求権に基づき商品の出荷を命ずることはむしろ当然とされています。


 

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