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オートグラス東日本事件(公取委平成12年2月2日勧告審決)の報告
平成16年3月23日
弁護士 木村智彦

第1 事案の概要

  1 当事者:オートグラス東日本

 オートグラス東日本株式会社(以下「オートグラス東日本」という。)は、我が国における補修用ガラスの最大手の製造会社の子会社であり、北海道、東北、信越及び関東地方の地域において、動静増会社の製品を取り扱う唯一の卸売業者であり、同区域の補修用ガラスの卸分野において業界第一位を占めている。

  2 補修用ガラスについて
 国内で使用される補修用ガラスには、自動車製造業者が国内の補修用ガラスの製造業者に製造を依頼し、自社製自動車の純正部品として販売するもの(以下「純正品」という。)、国内の補修用ガラスの製造業者が自社製品として製造販売するもの(以下「社外品」という。)、海外から輸入されるもの(以下「輸入品」という。)等がある。
それぞれの補修用ガラスの末端価格は、純正品のメーカー希望小売価格を100とすると、およそ、純正品90〜100、社外品50〜90、輸入品40〜60といったように大きな価格差が見られる。
また、補修用ガラスには、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス等があり、それぞれに、自動車の車種、年式等に対応する型式があることから、国内で使用される純正品及び社外品の型式数は3000以上に上る。これに対し、輸入品は、補修用ガラスの中でも需要の多い貨物自動車向けのフロントガラスを中心に流通しており、その型式数は数十にとどまっている。

  3 補修用ガラスの流通経路について
 純正品は、自動車製造業者から部品販売業者を通じて補修用ガラス販売会社(以下「ガラス商」という。)に販売され、ガラス商から主として自動車ディーラーに販売されている。
また、社外品は、補修用ガラスの製造業者から卸売業者(特約店)を通じてガラス商に販売され、ガラス商から貨物運送業者等の大口需要家、自動車ディーラー自動車修理業者等に販売されている。
なお、卸売業者は、自動車製造業者から、純正品のガラス行商への配送業務を請け負っている。したがって、卸売業者は、純正品と社外品を併せてガラス商に配送しており、純正品は物流上ガラス製造業者から直接ガラス商に配送されている。
 これに対し、輸入品は、輸入販売業者等から、直接に、又はガラス商を通じて大口需要家、自動車修理業者等のユーザーに販売されているところ、ガラス商を通じないで購入した者の多くは、補修用ガラスを自動車に取り付ける技術を持たないため、取り付け作業等を別途ガラス商等に依頼している。

  4 補修用ガラスの取引について
 ガラス商は、補修用ガラスの型式等が多いことから、大量の在庫を持つことができず、通常、破損等により補修用ガラスの需要が生じる都度、純正品又は社外品を卸売業者から取り寄せて配送しており、その際、自動車への取付作業をあわせて行っている。
 補修用ガラスの取引においては、ユーザーは早急な補修を求めることが多いことから、価格に加えて、迅速な供給が重視されており、卸売業者は、1日1回から数回の定期便を運行して取引先ガラス商を巡回している。中でもオートグラス東日本は、競合する卸売業者に比して迅速な供給が可能な体制を採っている。

  5 本件の概要
 オートグラス東日本は、平成7年ころから、輸入品が大口需要者に対して輸入販売業業者等から、自社の社外品の卸売高及び卸売価格が低下することを懸念し、取引先ガラス商に対する社外品の卸売価格を引き下げる等の対抗策を講じてきたところ、輸入品を取り扱うガラス商が増加することにより輸入品の流通が活発化することを抑制するため、広告等を用いるなどして積極的に輸入品を取り扱っている取引先ガラス商に対して、社外品の卸売価格を引き上げ、配送の回数を減らす行為を行っている。具体的には、
(1)  平成9年ころから、輸入販売業者と連盟の広告を大口需要者等に送付し、社外品に比べ格安の価格で輸入品の販売を行っていた取引先ガラス商Aに対して、オートグラス東日本は、同年12月ころ、社外品の卸売価格を15パーセント引き上げる旨通知し、これを翌月から実施し、さらに、1日2回の定期便及び必要に応じた臨時便により行っていた同ガラス商に対する純正品及び社外品の配送について、平成10年3月ころから定期便を1日1回に減らした上、臨時便に応じないこととしている。
(2)  平成8年1月ころから、他社名義の広告を大口需要者に送付し、社外品に比べ格安の価格で輸入品の販売を行っていた取引先ガラス商Bに対して、オートグラス東日本は、平成10年9月ころ、社外品の卸売価格を10パーセント引き上げ、さらに同ガラス商の本社及び営業所に対して行っていた純正品及び社外品の1日2回の定期便及び1日3回程度の臨時便による配送について、本社に対しては臨時便に応じない旨、営業所に対しては定期便を1日1回に減らした上、臨時便に応じない旨通知し、これを翌月から実施している。
(3)  オートグラス東日本は、上記(1)(2)の行為を行った旨を、必要に応じて他の取引先ガラス商に対して説明している。


第2 審決要旨

 公正取引委員会は、前記5の事実について、「オートグラス東日本は、積極的に輸入品を取り扱う取引先ガラス商に対して、社外品の卸売価格を引き上げ、配送の回数を減らす行為を行っているものであり、これは、不当に、ある事業者に対して取引の条件又は実施について不利な取扱いをするものであって、不公正な取引方法の第4項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである」と認定し、違反措置を排除するために必要な措置を取ることを命じた。

第3 争点

(1) オートグラス東日本の行為と適用法条
(2) 公正競争阻害性

第4 検討
  1 オートグラス東日本の行為と適用法条について
 本件は、オートグラス東日本が、補修用ガラス市場に低価格な輸入品が出回りはじめた状況下において、輸入品を積極的に取り扱っている取引先ガラス商に対して、社外品の卸売価格を引き上げ、配送の回数を減らすことにより、輸入品の流通を抑制しようとした事案である。
(1)  オートグラス東日本の行為は、同社が、補修用ガラスの卸売分野において業界第一位を占めていることからすると、輸入品の市場参入を阻害するものとして、私的独占(法3条)に該当しないか。
→ 本件においては、結局のところ、オートグラス東日本から不利益な措置を受けたガラス商が輸入品の取り扱いを取りやめるに至らなかった。また、市場全体としても、輸入品の流通量は着実に伸びているとのことである。
 そうすると、オートグラス東日本の行為は、輸入品の市場参入を排除しているというまでの実態はなく、19条の適用が相当。
(2)  不公正な取引方法(法19条)として、オートグラス東日本がとった措置は、卸売価格の引上げ及び配送回数の削減である。そうすると、前者は、価格、後者は、取引の条件又は実施にかかわる差別的取り扱いであるから、一般指定3項と4項の両方の適用があるのではないか。
→ 一般指定4項が差別的取り扱いについての一般規定であるとの理解の下に、本件行為が取引先ガラス商の輸入品取扱いを抑制する目的で2つの手段を組み合わせて講じたものであることから、あえて3項及び4項を適用することなく、4項のみを適用することが相当と判断したものと考えられる(審査担当者の解説)。

  2 公正競争阻害性について
(1)  経済活動において、価格その他の取引条件をどのように設定するかは、本来自由に行なわれるものであり、需給関係、相手方との取引数量の多寡、商品・役務の状況等に応じて、商品・役務の価格や各種取引条件が変動することは自然なことである。
したがって、取引条件等に差異が存在すること自体が問題となるのではなく、取引条件等に差異を設けることを通じて、市場における競争を減殺するかおそれがあるかどうかがポイントとなる。
 競争の減殺のおそれが認められるのは、具体的には、第一に、競争者の事業活動を困難にさせ、又は取引の相手方を競争上著しく有利又は不利にさせるおそれがある場合であり、第二に、独占禁止法上違法又は不当な目的を達成するために用いられる場合である(昭和57年・独禁研報告「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」)。
(2) 本件行為について
オートグラス東日本がとった措置は、卸売価格の引上げ及び配送回数の削減である。
このうち、まず、卸売価格の引上げが、ガラス商にとって不利益であることは明らかであるが、本件における価格差は10パーセントから15パーセントであり、これをもって著しく不利な取扱いと認定できるか疑問がある。 しかし、前記のとおり、ガラス商にとってガラスを迅速に入手することが重要な競争手段であり、配送回数を削減されることは、他のガラス商との競争において多大な不利益が生じる。このようなガラス商の流通構造の特殊性を考慮すると、卸売価格の引上げと配送回数の削減の二つの措置が合わさることにより、輸入品を取扱うガラス商は、従来どおりの利益を生むことが困難になるであろうと解されることから、「取引の相手方」たる輸入品を取り扱うガラス商を「競争上著しく有利又は不利にさせるおそれがある」といえ、市場における競争を減殺するおそれがあると認定できる。


以 上



 

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