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東芝エレベーターテクノス事件
(大阪高裁平成5年7月30日判決、
大阪地裁平成2年7月30日判決・百選60、75、103事件)
平成14年5月15日
 弁護士 平井 信二

いわゆるロックイン現象(新規顧客にとっては、どの取引先を選ぶかという点について多くの選択肢があるのに、いったんある取引を選んでしまった顧客にとっては、他の選択肢の存在が無意味になること)に関する事案。
甲事件 エレベーター系列の保守業者が系列外の保守業者と保守契約を締結しているユーザーに対して、交換部品だけの販売はせず、部品取り替え工事を合わせて発注しなければ注文に応じないとした行為が独占禁止法上の抱き合わせ規制に抵触するとして不法行為による損害賠償請求が認められた事例。
乙事件 エレベーターメーカー系列の保守業者が系列外の保守業者に対して交換部品の供給を拒絶した行為が独占禁止法上の競争者に対する取引妨害に当たるとして不法行為による損害賠償請求が認められた事例。


【争点】
「不当に」(公正競争阻害性)の判断



【甲事件(不法行為に基づく損害賠償請求事件)】
1. 事案の概要
東芝製のエレベーターを自己のビルに設置している者(X1)が、エレベーターの普段の保守管理を独立系保守業者Aに行わせていた。昭和59年4月2日ころから、ビルのエレベーターがスタートショックや停止位置以外での停止などの事故を起こしたので、X1は、Aとともに原因を調査した上、同年5月17日、東芝の子会社であるメーカー系保守業者であるY東芝エレベーターテクノス梶i旧商号:東芝昇降機サービス梶jに対して、必要な部品を発注した。しかし、Yは、約1ヶ月後に、「保守部品のみの販売はせず、その取替え調整工事も併せて発注しなければ注文に応じない、部品の納期は3ヶ月先である」と回答し、再度の催促に対しても、供給に応じなかった。
(主な背景事情)
@ 建築基準法により、昇降機の所有者等は、エレベーターを常時適法な状態に維持するように努め、定期的に一級建築士もしくは二級建築士又は建設大臣が定める資格を有する者に昇降機の検査をさせ、その結果を都道府県知事に報告すべき義務がある。
A メーカー系保守業者は、親会社製又は自社製昇降機の保守点検業のみならず、親会社製又は自社の製造する保守部品を事実上一手に独占販売している。
B 昭和59年3月9日、公正取引委員会が、Yを含むメーカー系保守業者に対し、「親会社製昇降機の保守部品の供給方針を改善し、他の保守点検業者に対する保守部品の供給についてその事業活動を不当に妨害することのないよう適切な措置を採ること」並びに「不当な妨害となる供給の制限等の行為を、以後再び行うことのないように」との厳重警告を行っている。
C Yは、自己の契約先以外からの部品の注文に応じる条件として、エレベーターの所有者または所有者の意向を汲んだものからの依頼であること、機器性能・安全性に影響を及ぼさない部品以外は、部品売りを行わず、労務費込みの有償工事としてのみ受注すること、原則として、在庫に余裕がある場合又は余裕ができてから契約先以外からの注文に応じること、という基準を定めている。

2. 当事者の主な主張(公序良俗違反の点は除く)

X1
  Yの行為は、X1に対して、独立系保守業者との取引を妨害し、同者を昇降機保守点検業界から締め出すことを目的としてなされたものであり、独占禁止法2条9項6号、一般指定第15項に該当し、同法19条に違反する違法なものである(2審で、Yの行為は、部品のみの注文に対し、Yによる取り替え調整工事という役務の購入をX1に強制するもので、一般指定第10項の抱き合わせ販売等に該当し、独占禁止法19条に違反するとの主張を追加。)。
Yは、独占禁止法に違反することを認識しながら、各行為に及んだものであり、不法行為責任を負う。
損害 名誉・信用毀損による損害100万円及び弁護士費用100万円等合計207万2960円

(参考)
独占禁止法19条
「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」
同法2条9項
「この法律において不公正な取引方法とは、左の各号の一に該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
六 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は〜すること。」
一般指定第10項
「(抱き合わせ販売等)
相手方に対し、不当に、商品または役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する業者と取り引きするように強制すること。」
一般指定第15項 
「(競争者に対する取引妨害)
自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。」


  Yの各行為は、十分な合理性を有し、独占禁止法に違反しないし、仮に、独占禁止法に違反したとしても、高度の技術が集大成された精密複合機械であるエレベーターの保守は、Yのみがよくなし得るのであり、安全を確保するために、独立系保守業者に部品のみを売らなかったことは、正当な理由があるというべきであり、違法な行為とならない。東芝の保守・修理部門の担当を目的として設立され、東芝から継受した技術力とノウハウに関する詳細な情報を有するYでなければ東芝製エレベーターの保守・修理業務を完全に行うことはできず、Y自ら取替え調整工事を行うことによって、安全性を確保する責任がある。
(2審で、Xらの主張に従えば、メーカー系保守業者は結果的に部品の供給を強制されることになるところ、〜独立系保守業者の育成を強制されるいわれもないとの主張を追加。)


3. 大阪高裁の判断

独占禁止法違反の成否について
 
「1 〜によれば、A及びX2が、Yと競争関係にあること及びYが東芝のいわ   ゆる垂直系列下にあって、本件各部品につき、安全性を確保するため必要であるとして、その単体での供給はせず、取替え調整工事込みでなければ右の供給に応じないとしたことが明らかである。
2 そこで、このようなYの取引の方法が、不当な取引制限ないしは不公正な取引方法を禁止する独占禁止法(1条参照)に違反しているかどうか、について検討する。〜10項は、〜を、同15項は、〜を禁止している。ここにいう『不当に』とは、公正な競争を阻害するか否かの有無により判断されるべきである。
 ところで、商品の安全性の確保は、直接の競争の要因とはその性格を異にするけれども、これが一般消費者の利益に資するものであることはいうまでもなく、広い意味での公益に係わるというべきである。したがって、当該取引方法が安全性の確保のため必要であるか否かは、右の取引方法が『不当に』なされたかどうかを判断するに当たり、考慮すべき要因の一つである。
「4 〜本件では、特定のエレベーターにつき、現実的な故障が発生し、それに対応した修理部品の供給が問題となったのである。
そこで、右の故障を修理するに際し、本件各部品について、Yによる取り替え調整工事込みでなくては、右のエレベーターの安全性の確保ができないものかどうかの点を検討する。
     〜
 以上の各事実関係から見ると、A及びX1においては、エレベーターの安全性に関して一定の資格ないしは能力を有しているものということができる。そして、たとえその技術自体がYの技術自体に対比して相対的には劣るとみられるものであったとしてみても、A及びX2は、その技術水準において、本件各部品の単体での供給を受けて、前記の現実的故障を修理するに足りる程度には達していたものであったとみてよい。〜もっともY提出の証拠によれば、独立系保守業者の中には極めて危険な措置をとるものもあったことが認められるけれども、A及びX2がそのような措置をとり、Yがこれを理由に部品単体での供給を拒否したのであれば格別、危険な措置を取った他の業者があったからといって、Yの前記の取引方法が正当化されるいわれはない。したがって、本件においては、Yが本件各部品を単体で供給することなく、取り替え調整工事込みでなければこれを供給しないとし、このような両者一体のもとでの部品供給でなければエレベーターの安全性を確保できないと認めるべき証拠は存しないことに帰するから、Yが、その独自の判断で、Y以外の保守業者に対する本件各部品の単体での供給を拒否するYの取引方法には、独占禁止法上の正当性や合理性はないものというべきである。」
「5 〜本件で問題とされているのは、独立系保守業者が、自らのストックとして部品の注文をした場合ではなく、東芝製エレベーターの所有者がその現実に発生した故障について修理に必要な部品を供給することを求めている場合であって、メーカーである東芝及びその子会社で東芝製エレベーターの部品を一手に販売しているYが、東芝製エレベーター及びその部品の数・耐用年数・故障の頻度を容易に把握し得ること及びエレベーターの所有者が容易にはエレベーターを他社製のそれに交換し難いのはいわば当然であることを考慮すれば、このような部品を一定期間常備し、必要の都度、求めに応じて迅速にこれを供給することは、右の販売者である東芝ないしYが負うべき、東芝製エレベーターを購入してこれを所有する者に対する、右販売に付随した当然の義務であると解するのが相当である。したがって、Yの右の主張が容れられなかったからといって、Yが独立系保守業者の育成を強制されるものとはいえない。」
「6 本件各部品とその取り替え調整工事とは、それぞれ独立性を有し、独立して取引の対象とされている。そして、安全性確保のための必要性が明確に認められない以上、このような商品と役務を抱き合わせての取引をすることは、買い手にその商品選択の自由を失わせ、事業者間の公正な能率競争を阻害するものであって、不当というべきである(なお、いわゆるブランド・イメージは、企業の経済的活動の合理性という見地から問題とされることはあり得ても、独占禁止法上の問題ではない。)
「7 〜Yの甲事件行為については、まさに前記のようなYの抱き合わせ販売の方針に基づくものであって、これが不当な取引妨害行為に該当するものとみる余地が全くないではないとしても、前記一般指定によれば、右の行為は、その15項にではなく、10項に該当するというべきである。」

不法行為の成否について
  「Yが昭和59年3月に公正取引委員会から部品の供給につき警告を受けていることは前認定のとおりであるところ、Yが東芝製エレベーターの保守に関しては90パーセント位の市場占拠率を有している〔なお、平成3年になって公正取引委員会が独占的状態に係わる事業分野の考え方の別表を改訂して昇降機保守業をこれに加えた〕ことに照らすと、Yは、東芝製エレベーターの保守を一手に独占し、独立系保守業者等他の競争者を排除しようとの意図の下に本件各行為を行ったものと容易に推認することができる。
     以上までに認定、判示したところからすれば、Yは、前記のXらに対する各対応が公正取引委員会の一般指定に該当し、独占禁止法に違反するものであることを認識していたか、少なくとも認識することが可能であったものとみられ(同委員会が警告以外の措置に出なかったことは、Yの右の認識の内容を左右するものではない。)、以上認定のYの本件各行為は、それにより、故意に(少なくとも過失によって)Xらに後記認定の損害を与えたものというべく、民法709条の不法行為に当たるものというほかはない。」

損害について
  「名誉・信用毀損に対する慰謝料としては、10万円が相当」
「弁護士費用は、1万円とするのが相当」




【乙事件(同上)】
1. 事案の概要
独立系保守業者X2は、訴外会社Bとその所有のエレベーターの保守点検契約を締結していたところ、昭和59年頃、エレベーターが急停止する事故が発生した。X2は、Yに対し、部品を注文しても取替え調整工事込みでないと売ってもらえないことを知っていたので、訴外会社B名義で、Yに対し修理を依頼したところ、Yは翌日エレベーターの応急修理をしたが、部品は3ヵ月後でなければ納入できないといって帰った。その翌日も、B社の社長がエレベーター内で缶詰になる事故が発生し、X2は、やむなく当該ビルの建築請負業者であった清水建設に依頼してYに部品の供給を催促してもらったところ、Yは、翌日部品を持参して取替え工事をした。このため、X2は、Bの信頼を失い、保守契約を解約された。Bは、その後、Yと保守契約を締結している。

2. 当事者の主張

1) X2の主張
  Yの行為は、X2に代わって、Bとの間で保守点検を締結しようという意図に基づくものであり、独占禁止法2条9項6号、一般指定第15項に該当し、同法19条に違反する違法なものである(2審で、Yは、乙事件部品の販売についても、Yによる取り替え調整工事込みでないと販売しない、注文しても3ヶ月かかるなどの対応をしていた。そのため、X2はBとの保守契約の解約を余儀なくされた。Yの右行為も、一般指定第10項の抱き合わせ販売等に該当し、独占禁止法19条に違反するとの主張を追加。)。
Yは、独占禁止法に違反することを認識しながら、各行為に及んだものであり、不法行為責任を負う。
損害―得べかりし利益の喪失119万1724円(昇降機の所有者等は、建築基準法の要請によって、エレベーターを運行させている限り、必ず、エレベーターの保守点検契約を締結しており、契約の相手方に特に問題がない限り、保守点検契約を自動的に更新している。X2は、Bとの間で、月1万6000円で期間の定めのない保守点検契約を締結していたのであり、Yの不当な乙事件取引妨害行為がなければ、少なくとも、税法上のエレベーター耐用年数である17年間は、保守点検契約が継続できた。乙事件エレベーターは、昭和52年頃設置され、右耐用年数からすれば、少なくとも、後9年間Bとの保守点検契約を継続することができた。)及び弁護士費用100万円等合計219万1724円

2) Yの主張
  甲事件とほぼ同様

3. 大阪高裁の判断

独占禁止法違反の点について
  「Yの乙事件行為については、抱き合わせ販売の方針にしたがってなされたものではあるが、もともとX2において乙事件部品のみの注文をしたわけではなく、右方針に従い、取り替え調整工事込みで注文をしたのであるから、これが不当な抱き合わせ販売に当たるとしてその損害賠償を求めるのは筋違いである(同時にまた、X2主張の損害との因果関係もない。)〜
 メーカーである東芝及びその子会社で東芝製エレベーターの部品を一手に販売しているYは、東芝製エレベーター及びその部品の数・耐用年数・故障の頻度を容易に把握し得ること及びエレベーターの所有者が容易にはそのエレベーターを他社製のそれに交換し難いことからして、部品の常備及び供給が東芝及びその子会社で東芝製エレベーターを一手に販売しているYの同エレベーター所有者に対する義務であると解される一方で、エレベーターが交通(輸送)機関の一種であって、これに不備が生じた場合迅速な回復が望まれるのは極めて当然であることからすると、Yの保守契約先でないからといって、手持ちしていた部品の納期を3ヶ月も先に指定することに合理性があるとは到底見られず、不当とされてもやむを得ないところである。
 したがって、Yの乙事件行為は、一般指定15項の不当な取引妨害行為に当たるというべきである。」
その余は甲事件と同じ。

不法行為の成否について
  甲事件と同じ

損害について
  「弁論の全趣旨によれば、X2とBとの保守契約がYの不法行為がなかった場合確実に継続したと相当因果関係が認められる範囲は、1年とするのが相当である。右契約による1年間の純利益がX2の得べかりし利益となるところ、昭和60年度の総理府統計局編個人企業経済調査年報及び弁論の全趣旨によれば、X2の営業利益は33パーセントとみるのが相当である。X2とBとの保守契約の保守金額は月1万6000円であるから、X2は、1年間に、Bとの保守契約によって19万2000円を得ることができ、その33パーセントである6万3360円がX2の被った損害ということになる。」
「弁護士費用は、1万円とするのが相当」




【解説】
1. 「公正な競争を阻害するおそれ」(独禁法2条9項)
  一般指定の各項に規定されている「正当な理由がないのに」、「不当に」、「正常な商慣習に照らして不当に」という要件が公正競争阻害性を意味するものとされている。
2. 当該行為を行うことに競争とは関係ない正当事由があることを理由に、その行為は不公正な取引方法とはならないとしてよいか
 
育児用粉ミルク和光堂事件・同明治商事事件(最判昭50・7・10、最判昭50・7・11)―再販価格維持行為に関する審決取消請求事件
  「法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は、公正な競争秩序を維持することにあるから、法2条7項4号の『不当に』とは、かかる法の趣旨に照らして判断すべきものであり、また、右4号の規定を具体化した一般指定八は、拘束条件付取引が相手方の事業活動における競争を阻害することとなる点に右の不当性を認め、具体的な場合に右の不当性がないものを除外する趣旨で『正当な理由がないのに』との限定を付したものと解すべきである。したがって、右の『正当な理由』とは、専ら公正な競争秩序維持の見地からみた観念であって、当該拘束条件が相手方の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいうものであり、単に通常の意味において正当のごとくみえる場合すなわち競争秩序の維持とは直接関係のない事業経営上又は取引上の観点等からみて合理性ないし必要性があるにすぎない場合などは、ここにいう『正当な理由』があるとすることはできない

都立芝浦屠場事件(最判平元・12・14)―不当廉売に関する損害賠償請求事件
  「右の『不当に』ないし『正当な理由がないのに』なる要件に当たるかどうか、換言すれば、不当廉売規制に違反するかどうかは、専ら公正な競争秩序維持の見地に立ち、具体的な場合における行為の意図・目的、態様、競争関係の実態及び市場の状況等を総合考慮して判断すべきものである。
「屠場料の値上げには生産者が敏感に反応して、芝浦への生体の集荷量の減少、都食肉市場の卸売物価ひいては都民に対する小売価格の高騰を招く可能性があるところから、かかる事態を回避して集荷量の確保及び価格の安定を図るとの政策目的達成のため、赤字経営の防止よりは物価抑制策を優先させることとし、〜公営中心主義を廃止した屠畜場法の下において、公営企業である屠畜場の事業主体が特定の政策目的から廉売行為に出たというだけでは、公正競争阻害性を欠くということはできないことも独占禁止法19条の規定の趣旨から明らかである。しかしながら、被上告人の意図・目的が右のようなものであって、前示のような三河島及び芝浦を含む屠畜場事業の競争関係の実態、ことに競争の地理的範囲、競争事業者の認可額の実情、屠畜場市場の状況、上告人の実徴収額が認可額を下回った事情等を総合考慮すれば、被上告人の前示行為は、公正な競争を阻害するものではないといわざるを得ず、旧指定の五にいう『不当に』ないし一般指定の6にいう『正当な理由がないのに』した行為に当たるものということはできないから、被上告人の右行為は独占禁止法19条に違反するものではない。」

3. 高裁判例評釈抜粋
 
「たとえ、安全性の必要を考慮する余地があるとしても、そのための手段がすべて正当化されるものではなく、より競争制限的でない代替的な手段がとられるべきであるとするのが通説である。この点からも、本件Yの行為は、過度に競争阻害性が強いものではなかったかと思われる。」(舟田正之「百選(第6版)」123頁)

「なお本判決はYの部品提供義務を立論の前提としているようにも読めるが、そのような前提は不要であろう。」(藤田稔「百選(第6版)」153頁、同旨208頁)

「供給義務 本判決はY側の供給義務に言及し、公正競争阻害性判断に、私法上の義務が影響することを示す。独禁法上及び私法上の違法判断の連動と見ることができる(〜)。ただし、この義務への言及が独禁法違反認定の補強となることを別にして、独禁法上の違法判断は競争秩序から見た当不当を問うもので、この義務への言及の必然性は疑問である(〜。この義務があれば独禁法違反認定なしでも賠償責任が成立し得る)。」(瀬領真悟「百選(第5版)165頁」)

「Yの部品常備供給義務が独占禁止法判断を行わずに民法のみによって認められるとするならば独占禁止法に関する議論は傍論であり、独占禁止法を根拠としてYの部品常備供給義務を認めるならば判旨は全体として循環論法であるとの批判がある(白石〜)。他方、判旨は民法と独占禁止法とが相互に補完ないし連動し合う関係にあることを判示しているとの見解もある(根岸〜)が、そもそも独占禁止法判断を行わずに民法のみによってYの部品常備供給義務を肯定するのは困難であろう。〜契約関係等のない者に対する部品常備供給義務を民法709条の解釈として肯定することは困難である。結局、本件ではYの独占禁止法違反の有無こそが、Yの行為の違法性判断の核心部分なのである」(大塚誠「ジュリスト1118号」126頁)
 「第1審では両事件とも不当な取引妨害とされていたが、15項は一般条項的存在であるからむやみに適用すべきではなく、少なくとも甲事件については抱き合わせ販売とすべきであったとの批判がなされていた。本判決は、かかる多くの学説の批判を受け入れたものと評価できる。」(同127頁)

「一般に、『不当な取引拒絶』に当たるとされる場合、常に結果として、取引を強制することになる。そこでは、取引をする義務があるから、取引拒絶が不当となるのではなく、その逆、即ち、取引拒絶が不当だから、取引しなければならないのである。本件でも、Yの行為がX1・Aの取引の自由にどういう影響を与える性格のものか、がまず判断されるべきであって、判旨のように、最初にYの側の義務を考える必要はない。この判断の結果として、独禁法上、取引が義務づけられることになる。」(舟田正之「ジュリスト1056号」150頁)

4. 部品供給義務に関する若干の感想
 
評釈の中には、判決が、Yの部品供給義務につき言及したことにつき、独占禁止法違反の判断上不要ではないかと論じるものがある。
しかしながら、Xらは、甲事件においては、「取替え調整工事込みでなければ部品注文に応じなかった」、乙事件においては、「部品を3ヵ月後でなければ納入しなかった」とのYの不作為を問題とし、民法709条に基づき損害賠償請求をしているものである。
したがって、Yの「不作為」を問題としている以上、Yの作為義務、本件で言えばYの部品供給義務に関する判断は、民法709条の違法性判断にあたり必要となるものと思われる。

もっとも、上記大塚評釈のとおり、民法のみによってYの部品供給義務を肯定することは、訴訟において実際上困難と思われる。
 しかしながら、上記舟田評釈が示唆するとおり、「不当な取引拒絶」にあたるとして、Yの部品供給義務を論じていくことは、検討の価値があると考える。
 
以上

 

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