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表計算ソフトと他のソフトの抱き合わせ販売
(マイクロソフト事件・公取委平成10年12月14日勧告審決)
平成14年6月19日
弁護士 土田泰弘


【審決要旨】
<事実の概要>
(1) 表計算ソフト … 平成5年ころから「エクセル」市場占拠率第1位
(2) ワープロソフト … 平成6年当時は、「一太郎」が市場占拠率第1位
(1) パソコン製造販売業者は、表計算ソフト、ワープロソフト等の中心的な応用ソフトウェアをパソコン本体に搭載又は同梱して販売する場合があり、平成9年に出荷されたパソコンのうち、表計算ソフト及びワープロソフトが搭載又は同梱されて出荷されたものの割合は約4割となっている。この際、パソコン製造販売業者は、パソコン製造に係るコストが増加すること等の理由から、通常、同種のソフトウェアを重複してパソコン本体に搭載又は同梱して出荷することは行っていない。
(2) 一般消費者がパソコンを購入する場合、搭載又は同梱されている表計算ソフト又はワープロソフトが選択の基準の一つとなっている。
パソコン本体に搭載又は同梱されたソフトウェアについて、いわゆるバージョンアップが行われた場合、一般消費者は、当該ソフトウェアのパッケージ製品を購入することが多い。
(「エクセル」への「ワード」の抱き合わせ)
(1) マイクロソフト社は、平成7年1月ころ、富士通に対し、「エクセル」と「ワード」を併せてパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾する契約の締結を申し入れた。この申入れに対し、富士通は、「エクセル」と当「一太郎」を併せて搭載したパソコンを発売することを希望し、「エクセル」のみをパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾する契約の締結を要請した。
しかしながら、マイクロソフト社は、この要請を拒絶し、「エクセル」をパソコン本体に搭載するためには「ワード」を併せて搭載せざるを得ないと考えた富士通に対し、「ワード」を併せてパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾する契約を締結することを受け入れさせ、平成7年3月1日付けで、富士通との間で、「エクセル」と「ワード」を併せてパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾する契約(以下単に「プレインストール契約」という。)を締結した。
この契約の締結により、富士通は、平成7年3月、「エクセル」と「ワード」を併せて搭載したパソコンを発売した。
(2) マイクロソフト社は、平成7年8月ころ、主要なパソコン製造販売業者の1つである日本電気に対し、プレインストール契約を締結することを提案した。日本電気は、マイクロソフト社が「エクセル」と「ワード」とを分離してパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾しないであろうと考えたこと等から、この提案を受け入れ、マイクロソフト社との間で、プレインストール契約を締結した。
この契約の締結により、日本電気は、平成7年11月、「エクセル」と「ワード」を併せて搭載したパソコンを発売した。
(3) マイクロソフト社は、平成8年1月以降、「エクセル」及び「ワード」のいわゆるバージョンアップに伴い、富士通及び日本電気との間で、プレインストール契約を更新するとともに、その他のパソコン製造販売業者との間で、順次、プレインストール契約を締結した。
マイクロソフト社は、この契約の締結交渉の際に、一部のパソコン製造販売業者から「エクセル」のみを対象とした契約を締結することを要請されたが、これを拒絶し、プレインストール契約を受け入れさせた。
マイクロソフト社とプレインストール契約を締結したこれらパソコン製造販売業者は、平成8年2月以降、「エクセル」と「ワード」を併せて搭載したパソコンを販売した。
(4) マイクロソフト社は、平成8年7月、一部のパソコン販売業者から「エクセル」のみを対象とした契約を締結することを要請されたが、これを拒絶した。
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平成7年以降、ワープロソフトの市場における「ワード」の市場占拠率が拡大し、平成9年度には第1位を占めるに至っている。


<法令の適用>
マイクロソフト社は、取引先パソコン製造販売業者等に対し、不当に、表計算ソフトの供給に併せてワープロソフトを自己から購入させ…ているものであって、これは、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第10項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。


<主文>
マイクロソフトは、取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者に対し、同製造販売業者が「エクセル」をパーソナルコンピュータ本体に搭載又は同梱して出荷する権利を許諾する際に、「ワード」を併せて搭載又は同梱させている行為…を取りやめなければならない。
マイクロソフは、取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者と締結している「エクセル」、「ワード」及び「アウトルック」を併せてパーソナルコンピュータ本体に搭載又は同梱して出荷する権利を許諾する契約について、このうち1又は2のソフトウェアを搭載又は同梱して出荷する権利を許諾する契約に変更するよう取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者から申出を受けた場合には、当該申出に応じなければならない。
マイクロソフトは、今後、取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者に対し、同製造販売業者が「エクセル」又は「ワード」をパーソナルコンピュータ本体に搭載又は同梱して出荷する権利を許諾する際に、当該ソフトウェア以外のパーソナルコンピュータ用ソフトウェアを併せて搭載又は同梱させる行為を行ってはならない。




【解説】
問題となる条文
  不公正な取引方法の一般指定10項(抱き合わせ販売等)
「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。」

抱き合わせ販売の公正競争阻害性
  2つの側面から認められる(NBL663小畑論文参照)
@ 顧客の商品・役務の選択の自由を侵害するおそれのある競争手段であり,価格・品質・サービスを中心とする能率競争の観点から見て不公正であること。
公正競争阻害性の有無の判断にあたっては,能率競争の観点からみて,競争手段として不公正であるかどうかが中心となり,市場全体における競争に及ぼす影響は必ずしも要件ではない。
A 従たる商品役務の市場における自由な競争を減殺するおそれがある。
当該行為の客観的な競争減殺効果の判断の有無が中心となり,従たる商品がある程度実質的な量,金額であり,当該市場における競争に影響を及ぼすものであるかを考慮することになる。

高裁判例評釈抜粋
  抱き合わされる商品の市場における競争の阻害について具体的に記載されており,Aの観点から公正競争阻害性を認めたものと考えられる。以下,10項への該当性について述べる。

(1) 別々の商品といえるか
抱き合わせとは,2つの異なる商品役務をあわせて売ることである。2つに見えるものが実は一体として1つの商品役務であるならば,そもそも抱き合わせと呼ばない。
(本件)
各ソフトは,異なった機能を有する独立のソフト → 別々の商品といえる。

(2) 従たる商品の市場
〜従たる商品役務の市場というものを,独禁法上の保護に値する市場として,独立に観念できるか〜
(本件)
ワープロソフトは一般消費者の需要が大きい
→保護に値する市場として,独立に観念できる。

(3) 抱き合わせ
〜需要者が不本意ながら応じていることは違反要件か〜
抱き合わされる商品の市場における競争阻害のおそれが生じたことが問題である
→不本意ながら応じていることは違反要件とすべきでない。
(本件)
パソコン製造販売業者がマイクロソフト社の申入れに異議を唱えることなく受け入れたケースも抱き合わせにあたる。
審決には,一部のパソコンメーカーが主たる商品役務のみの供給を要請したのにマイクロソフト社が拒絶したケースがあることに触れる部分がある。
このようなケースが特に問題だからではなく,このような事実の存在が,マイクロソフト社が「エクセル」と「ワード」を併せてのみパソコン製造販売業者と契約を締結するとの方針のもとに本件行為を行ったことを裏付けるものだからだと考えられる。

(4) 抱き合わせる商品の市場における有力性
抱き合わせは,通常,主たる商品の市場における有力な事業者が行った場合に,従たる商品の市場における競争を阻害するおそれが生じる。
(本件)
エクセル〜市場占拠率1位→有力性あり。

(5) 従たる商品の市場における競争の阻害
(本件)
パソコン本体への応用ソフトの搭載・同梱に関する事実,搭載・同梱されている応用ソフトに対する消費者の態度は,抱き合わせにより「ワード」と競合するソフトの取引機会を減少させる効果を持つ。
これにより,「ワード」の市場占拠率が1位になった。


部品供給義務に関する若干の感想
  a 不要品強要の弊害に着目するもの
b 従たる商品役務に関する他事業者排除の弊害に着目するもの
の2つに分けるべきであるとする。
「抱き合わせに関する先例は現行一般指定の制定後にもいくつか存在するが,一筋縄では理解しにくい状況となっている。その主な原因は,不要品強要型と他事業者排除型との峻別が十分でなく,むしろ,素朴な理解では抱き合わせといえば不要品強要型が念頭に置かれるのが通常であるところ,しかし他方,他事業者排除型を主に念頭に置きながら発展した米国独禁法理論を参照しようともするため,若干の議論の混乱が起こっているためではないかと思われる」と述べる。

※ およそ,抱き合わせが問題となる事例では,不要品強要の弊害は存在する。
→ 単にbの「他事業者排除の弊害」に着目するか否かで分類すればよいのではないか(土田)。


従来の判決・審決例
  (1) 長野県教科書供給所事件審決(昭39・2・11同意審決)
教科書および普通図書の販売を行い,長野県における唯一の教科書卸売業者である事業者が,教科書取扱手数料の削減による収入減に対処するため,普通図書の販売を拡充強化する方針のもとに種々研究を重ね,取次店は教科書取扱額の3分の1以上の額の普通図書を同社から購入すること等を内容とする取次店再編成要項を決定し,取次店に了承させたことが,旧一般指定6項に該当するとされたもの。現行一般指定10項に該当する事例。
審決は普通図書の市場における競争への影響にはふれておらず,取次店に対し普通図書を自己から購入するよう強制したことに公正競争阻害性を認めた。

(2) ドラクエW事件(平4・2・28審判審決)
家庭用電子玩具の卸売業者が,ドラクエWの販売にあたり,過去の取引実績に応じた数量配分以上の購入を希望する小売業者に対しては,在庫となっている不人気ソフトの購入を条件とし,小売業者に対し,当該人気ソフトを不人気ソフトと併せて購入させた行為等が,一般指定10項に該当するとされた。
※ 評価は分かれる。
その1
  @の観点から公正競争阻害性を認定した。なお,同審決は,「…被抱き合わせ商品市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある」ともいっているが,ここに述べられていることは@の観点からの考慮要因であり,抱き合わせられる商品の市場における競争秩序への悪影響に言及していることをもってAの観点からも公正競争阻害性を認定したとはいえないであろう。
その2
  明らかに不要品強要型と見られる事案についてあくまで他事業者排除型と同様の枠組みを使おうとした結果,不人気ゲームソフトの市場における競争秩序への悪影響を論じるという奇異な論法となっている。

(3) 東芝エレベーター事件(大阪高判平5・7・30)
独立系保守業者とエレベーターの保守契約を結んだビル所有者が,エレベーターの停止事故の発生に伴いメーカー系保守業者に保守部品の納品を依頼したところ,同メーカー系保守業者が,取替調整工事込みでないと納入に応じられない旨回答し,当該ビル所有者に部品を供給しなかった。大阪高等裁判所は,一般指定10項に該当するとした。
本判決も,@の観点から公正競争阻害性を認定したものとみられるが,「…控訴人は,東芝製エレベーターの保守を一手に独占し,独立系保守業者等他の競争者を排除しようとの意図の下に本件各行為を行ったものと容易に推認することができる」ともいっており,Aの観点からも公正競争阻害性を認定しうる事件であった。


※参考文献
○茶園成樹木・百選[第6版]74事件
○白石忠志・ジュリスト1150号P101〜,独禁法講義
○小畑徳彦・NBL663号P24〜
○楠茂樹・ジュリスト1161号P185〜



 

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