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対面販売等の不履行を理由とする取引拒絶
平成15年4月23日
弁護士  土田泰弘

1 資生堂事件(富士喜事件)(最高裁平成10年12月18日第3小法廷判決)

(1) 事案の概要
X=(株)富士喜,化粧品の小売業者
Y=資生堂東京販売(株),(株)資生堂の製造する化粧品を専門に取り扱う販売会社。

両社は特約店契約を締結して取引を継続していた。
特約店契約には,特約店は販売に当たり,対面販売,すなわち顧客に対し化粧品の使用方法等の説明や顧客の相談に応じることを義務づけていた。
Xは,昭和60年2月ころから,単に商品名,価格,商品コードを記載しただけのカタログを事業所等の職場に配布して電話やファクシミリでまとめて注文を受けて配達するという方法(Xはこれを「職域販売」と称している。)によって,化粧品を2割引きで販売。
Yは,昭和62年末ころ,Xが上記のような販売方法を採っていることに気づき,右カタログから資生堂化粧品を削除するよう申し入れたところ,Xはこれに応じた。
ところが,その後Xが資生堂化粧品のみを掲載したカタログを別冊として使用していることが判明したことから,Yは,平成元年4月12日付け書面にて勧告。双方の弁護士が折衝した結果,同年9月19日付け合意書によりXが資生堂化粧品のカタログ販売をしないこと,特約店契約の各条項に適合した方法により販売することなどを取り決めた。Yは,一連の折衝で,Xの値引販売を問題にしたことはない。
しかし,合意書作成後も,Xが従来の販売方法を変更する態度を全く示さなかったので,Yは,Xには従来の販売方法を改める意思がないものと判断して,解約条項に基づき,平成2年4月25日付けで解約の意思表示をし,Xに対する出荷を停止した。
Xは,解約は権利濫用,信義則違反に当たるとして,その効力を争い,Yに対して,契約上の地位を有することの確認と化粧品の引渡を求めた。

→一般指定12項(再販売価格の拘束),13項(拘束条件付取引)に該当するか?


(2) 1,2審の判断
(1審判決)
対面販売等の約定は,合理的な理由なく販売方法を制限し,価格維持を図るものであり独禁法の法意にもとる可能性も大いに存するので,解約は許されない。
→化粧品の引渡請求を認容。
契約上の地位を有することの確認請求については,商品の引渡請求が認められるとXの法的地位の不安定は解消するとして,確認の利益を否定してその部分の訴えを却下した。
(2審判決)
対面販売条項は合法,解約は有効。
地位の確認については,原審を取り消して請求棄却の自判。
地位確認請求が認められなければ,Xが本件特約店契約上の地位を有することが既判力をもって確定されず,たとえば,Xが新たな商品の注文をした場合に,Yが契約上の地位を争う余地を残すことになってしまう。


(3) 流通・取引慣行に関する独禁法上の指針(平成3年7月11日,第2部第2の5)
 
5. 小売業者の販売方法に関する制限
(1) 小売業者の販売方法に関する制限として,具体的には,メーカーが小売業者に対して,
@ 商品の説明販売を指示すること
A 商品の宅配を指示すること
B 商品の品質管理の条件を指示すること
C 自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること
等が挙げられる。
(2) メーカーが小売業者に対して,販売方法(販売価格,販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは,商品の安全性の確保,品質の保持,商標の信用の維持等,当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ,かつ,他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には,それ自体は独占禁止法上間題となるものではない。
しかし,メーカーが小売業者の販売方法に関する制限を手段として,小売業者の販売価格,競争品の取り扱い,販売地域,取引先等についての制限を行っている場合(注10)には,前記第1及び第2の2から4において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される(一般指定11項(排他条件付取引),12項(再販売価格の拘束)又は13項(拘束条件付取引))。
(注10) 例えば,当該制限事項を遵守しない小売業者のうち,安売りを行う小売業者に対してのみ,当該制限事項を遵守しないことを理由に出荷停止等を行う場合には,通常,販売方法の制限を手段として販売価格について制限を行っていると判断される。s


(4) 最高裁判決

…このように拘束条件付取引が規制されるのは、相手方の事業活動を拘束する条件を付けて取引すること、とりわけ、事業者が自己の取引とは直接関係のない相手方と第三者との取引について、競争に直接影響を及ぼすような拘束を加えることは、相手方が良質廉価な商品・役務を提供するという形で行われるべき競争を人為的に妨げる側面を有しているからである。しかし、拘束条件付取引の内容は様々であるから、その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し、それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合に、初めて相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものというべきである。
そして、メーカーや卸売業者が販売政策や販売方法について有する選択の自由は原則として尊重されるべきであることにかんがみると、これらの者が、小売業者に対して、商品の販売に当たり顧客に商品の説明をすることを義務付けたり、商品の品質管理の方法や陳列方法を指示したりするなどの形態によって販売方法に関する制限を課することは、@それが当該商品の販売のためのそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、A他の取引先に対しても同等の制限が課せられている限り、それ自体としては公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれはなく、一般指定の13にいう相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものではないと解するのが相当である。
  これを本件についてみると、本件特約店契約において、特約店に義務付けられた対面販売は、化粧品の説明を行ったり、その選択や使用方法について顧客の相談に応ずる(少なくとも常に顧客の求めにより説明・相談に応じ得る態勢を整えておく)という付加価値を付けて化粧品を販売する方法であって、被上告人が右販売方法を採る理由は、これによって、最適な条件で化粧品を使用して美容効果を高めたいとの顧客の要求に応え、あるいは肌荒れ等の皮膚のトラブルを防ぐ配慮をすることによって、顧客に満足感を与え、他の商品とは区別された資生堂化粧品に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメージ)を保持しようとするところにあると解されるところ、化粧品という商品の特性にかんがみれば、顧客の信頼を保持することが化粧品市場における競争力に影響することは自明のところであるから、被上告人が対面販売という販売方法を採ることにはそれなりの合理性があると考えられる。そして、被上告人は、他の取引先との間においても本件特約店契約と同一の約定を結んでおり、実際にも相当数の資生堂化粧品が対面販売により販売されていることからすれば、上告人に対してこれを義務付けることは、一般指定の13にいう相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものということはできないと解される。
次に、独占禁止法二条九項四号に基づく公正取引委員会の一般指定の12の一は、正当な理由がないのに、「相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。」(再販売価格の拘束)を禁じているところ、販売方法の制限を手段として再販売価格の拘束を行っていると認められる場合には、そのような販売方法は右の見地から独占禁止法上問題となり得ると解される。
  これを本件についてみると、販売方法に関する制限を課した場合、販売経費の増大を招くことなどから多かれ少なかれ小売価格が安定する効果が生ずるが、右のような効果が生ずるというだけで、直ちに販売価格の自由な決定を拘束しているということはできないと解すべきであるところ、被上告人が対面販売を手段として再販売価格の拘束を行っているとは認められないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。


(5) 最高裁判例解説(小野憲一)

1について
@(それなりの合理的理由)〜卸売業者の販売方法についての選択の自由を尊重。
A(同等の制限)〜販売方法の制限の恣意性を排除

(1) @又はAのいずれかが欠ける場合には,当然に公正競争阻害性があるといえるのか。
(2) @及びAをみたす場合には,いかなる場合も公正競争阻害性がないといえるのか。
→いずれも否定すべき。
拘束条件付取引の公正競争阻害性は,総合的な判断で決まるものである。

対面販売の公正競争阻害性が肯定される例外的場合
例えば,@対面販売を実施する化粧品メーカーの市場占有率・市場支配力が極めて大きく,競争制限効果が生じる場合,A有力化粧品メーカーがこぞって対面販売を実施しており,価格構造が硬直化するなど競争制限効果がもたらされる場合が挙げられることがある。ただし,一般論として公正競争阻害性が肯定される例外的事態を例示することは極めて困難。
2について
解約がXの値引販売を理由とするものであるかどうかは,事実問題であるせいか,判示は短い。
解約の真の目的が何かを判断するには,次のような要素が考慮されよう。
@当事者の交渉の経緯,解除に至る理由
 ア 値引販売中止の要請,警告の有無
 イ 販売方法の制限の合理性
 ウ Xの特約店契約の義務違反の程度
A他の販売店に対するYの対応
エ 対面販売の遵守・不遵守を問わず,廉売店に対して解約・出荷停止をしているか
オ 廉売業者かどうかを問わず,対面販売をしていない業者に解約・出荷停止をしているか





2 花王事件(江川企画事件)(最高裁平成10年12月18日第3小法廷判決)

(1) 事案の概要
原告=(有)江川企画〜化粧品の小売業者
被告=花王化粧品販売(株)〜花王化粧品の卸売業者
両社は特約店契約を締結して取引を継続していた。
特約店契約には,特約店は販売に当たり,カウンセリング販売,すなわち顧客に対して化粧品の使用方法などを説明したり,化粧品について顧客からの相談に応じたりして,これを積極的に推奨販売することが義務付けられていた。
ところが,原告は,被告との取引開始後,被告から仕入れた化粧品の大部分を,富士喜に卸売販売するようになった。
被告は,原告が商品を特約店以外に卸売販売しているのではないかと疑い,販売方法を確認しようとしたが,原告は事実関係を明らかにしなかった。
被告は,原告がカウンセリング販売の義務に違反するとともに,カウンセリング販売の約定に伴う卸売販売禁止の約定にも反しているとして,特約店契約を解約した。


(2) 1,2審の判断
(1審)
解約は権利濫用に該当する。
(2審)
解約は有効。


(3) 流通・取引慣行に関する独禁法上の指針(平成3年7月11日,第2部第2の4)
 4. 流通業者の取引先に関する制限
(1) 流通業者の取引先に関する制限としては,例えば
A メーカーが流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること(以下「仲間取引の禁止」という。)…
(3) 仲間取引の禁止
仲間取引の禁止が,安売りを行っている流通業者に対して自己の商品が販売されないようにするために行われる場合など,これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定13項)。


(4) 最高裁判決

判旨は,資生堂事件と同様の判断。
上記ガイドラインに対しては,対面販売などの販売方法が独禁法上問題にならない場合には,取引先の制限も許されるべきであるとの批判がされていた。判決はかかる見解と同様の判断をした。


以 上



 

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